こんにちは。理事の吉田有希です。このコラムでは、基本中の基本である「創傷治癒(そうしょうちゆ)」に関して解説していきます。
創傷治癒は、皮膚や組織が傷ついたときに、出血を止め、異物を取り除き、新しい組織をつくり、傷跡を整えていく体の仕組みです。
外科手術だけでなく、マイクロニードリングやレーザーなどの美容医療にも関わっています。
本記事は、以前のJISAM講義「創傷治癒の基本」の講義内容を基に、看護師・看護助手・受付事務などの医療スタッフが日々の業務で活用できるよう整理した解説です。最後に理解度を確認できる○×クイズを10問掲載したのでぜひトライしてみてください。
この記事で学べること
- 創傷治癒の4段階(止血期・炎症期・増殖期・成熟期)
- 術後に起こる正常な炎症反応と、医師へ報告すべき感染徴候
- 治癒を遅らせる原因、肥厚性瘢痕・ケロイドの違い
- 美容医療で創傷治癒の知識が役立つ場面と、職種別の観察・連携のポイント
1.創傷とは? 皮膚のバリアが壊れることから始まる
皮膚には、細菌などの侵入を防ぎ、体内の水分を保持するバリア機能があります。
切開や擦過などで皮膚の連続性が途切れると、このバリアが損なわれます。体は損傷を修復するために、直後から創傷治癒の仕組みを働かせます。
いわゆる「キズ」ですね。傷とも書きますが、実は医学用語の傷にはちゃんとした定義があります。
「創」は切り傷・擦り傷など皮膚表面が破れた損傷、「傷」は打撲・挫傷など皮膚の連続性が保たれた損傷を指して使い分けます。
2.創傷治癒の4段階:火事に例えてみましょう
創傷治癒は一般に、①止血期 → ②炎症期 → ③増殖期 → ④成熟期(再構築期)の4段階で説明されます。
火事の後に「延焼を止める → がれきを片付ける → 建て直す → 仕上げる」と考えると覚えやすくなります。
実際には、各段階が厳密に入れ替わるわけではなく、互いに重なりながら進行します。期間も創の大きさ、部位、治療内容、年齢、基礎疾患などにより大きく異なります。
| 段階 | 主な働き | 代表的な細胞 | おおよその時期 |
|---|---|---|---|
| ① 止血期 | 出血を止め、修復開始の合図を出す | 血小板 | 受傷直後~数時間 |
| ② 炎症期 | 細菌・異物・壊死組織を排除する | 好中球・マクロファージ | 受傷後数日を中心 |
| ③ 増殖期 | 新しい血管・組織・表皮をつくる | 線維芽細胞・血管内皮細胞・角化細胞 | 数日~数週間以降 |
| ④ 成熟期 | コラーゲンを再配置し、傷跡を整える | 線維芽細胞など | 数週間~数か月、時に1年以上 |
① 止血期:血小板は「止血係」であり「創傷治癒開始の合図役」
出血すると血小板が集まり、フィブリンとともに血の塊をつくって出血を止めます。
血小板はさらに、PDGF(血小板由来成長因子)などを放出し、傷を修復する細胞の活動を促します。
つまり、止血は単に血を止めるだけでなく、次の炎症期・増殖期につながる修復のスタートでもあります。
PDGFなどの成長因子はPRP(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿)で有名ですね。
② 炎症期:邪魔者排除のために「赤い・腫れる」
傷ついた組織には好中球やマクロファージなどの免疫細胞が集まり、細菌や壊死組織を取り除きます。
このとき、血管の反応によって発赤・腫脹・熱感・疼痛が現れることがあります。この4つは炎症の4徴候と呼ばれます。
一定の炎症反応は、正常な治癒に必要です。
ただし、症状が強くなる、いったん改善した後に再び悪化する、発熱や排膿を伴う場合は、邪魔者を排除しきれない状態=感染などを疑って評価する必要があります。正常な反応と異常な反応の区別は、時期と症状の変化を含めて判断します。
③ 増殖期:コラーゲン工場が働き、新しい組織ができる
線維芽細胞がコラーゲンなどの細胞外基質をつくり、血管内皮細胞が新しい毛細血管を形成します。
角化細胞は創面を覆い、上皮化を進めます。TGF-βやVEGF(血管内皮増殖因子)などのシグナルも関わります。この時期の組織は突貫工事で作られた未熟なものです。そのため硬さやつっぱりを感じることがあります。
④ 成熟期:傷跡が時間をかけて変化する
新しくつくられたコラーゲンは時間とともに再構築され、組織の強度やしなやかさが変わります。
一般に、早期にはⅢ型コラーゲンが相対的に多く、成熟に伴ってⅠ型コラーゲンの割合や線維の配列が変化します。
赤みのある傷跡が徐々に落ち着くこともありますが、個人差は大きく、完全に傷つく前の皮膚と同じ状態に戻るとは限りません。
3.創傷治癒が遅れるのはなぜ? 全身因子と局所因子
この四つのフェーズは健康な方では滞りなく進みますが、さまざまな原因で止まってしまうことがあります。
このフェーズのどこかで止まってしまう状態を「創傷治癒遅延」と呼びます。
治癒には細胞が働くための酸素、栄養、十分な血流、感染制御、適切な創環境が必要です。
全身因子:体の側にある治癒しにくさ
- 栄養不足・急激な体重減少:新しい組織をつくるためのエネルギーやタンパク質が不足する。
- 糖尿病・高血糖:感染や微小循環の問題を生じ、治癒に影響する。
- 循環障害・貧血:組織に必要な酸素や栄養が届きにくくなる。
- 喫煙:血流や免疫反応、組織修復に悪影響を及ぼす。
- 薬剤・基礎疾患:ステロイド、免疫抑制薬などの影響を受ける場合がある。
特に喫煙は術後創傷合併症のリスク因子として研究されています。タバコは百害あって一利なしです。
局所因子:傷そのものの環境
- 感染、異物、壊死組織が残っている。(自分の力で排除しきれない)
- 滲出液が多すぎて周囲の皮膚がふやける、または創が乾燥しすぎる。(炎症細胞がうまく働けなくなる)
- 創部に過度な圧迫、摩擦、引っ張る力がかかる。(新たなダメージが加わる)
- 傷の奥に空間(死腔)が残る、血流が十分でない。
- 創の状態に合わない処置やドレッシング材が使われている。
創傷管理は何が治癒を遅らせているか?を判断して、創の種類や感染状態に応じて、適切な洗浄、湿潤環境、被覆材などを選ぶ必要があります。
バイオフィルムとは?
バイオフィルムとは、微生物が集まり、菌体外の物質(ぬるぬる)に守られた状態です。これらは消毒液などから細菌を守る働きがあるので慢性創傷(治らないキズ)の治癒停滞に関わることがあります。
歯磨きをしていない歯がぬるぬるしてくるのはバイオフィルムです。褥瘡も創面がぬるぬるしてきますが、あれもバイオフィルムです。
治癒が進まない場合には、感染、血流、栄養、圧迫などを総合的に評価し、必要に応じて医療者が洗浄・デブリードマン(壊死組織等の除去)などを検討します。
4.肥厚性瘢痕とケロイドの違い:傷跡が盛り上がる理由
傷が治る過程でコラーゲンが過剰に増え、赤く盛り上がった傷跡が生じることがあります。
簡単に言えば創傷治癒を担っている細胞の暴走です。代表的なものが肥厚性瘢痕とケロイドです。
| 項目 | 肥厚性瘢痕 | ケロイド |
|---|---|---|
| 広がり方 | 一般に元の傷の範囲内 | 元の傷の範囲を超えて広がることがある |
| 経過 | 時間とともに改善する例がある | 長期に残り、拡大することがある |
| 症状 | 赤み、盛り上がり、かゆみ等 | かゆみや痛みが強いこともある |
見た目だけで両者を確実に区別できないこともあり、診断や治療方針の決定は医師が行います。
傷にかかる張力が瘢痕の状態に影響するため、術後のテープやシリコーン製品などによる管理が検討されます。
主な治療として以下のものがあります。
過剰な炎症を抑える→ステロイド
線維芽細胞の働きを抑える→ボツリヌストキシン(ボトックス)
皮膚にかかる過剰な力を減らす→テーピング
5.美容医療と創傷治癒:創傷治癒は美容医療そのもの
美容医療には、組織に意図的な刺激を加え、その後の修復反応を利用する治療がとても多いです。
そのため、必ず創傷治癒に関して知識を持ち、治癒遅延がないかどうか、過剰に反応が出ていないか常にチェックする必要があります。
代表的なものを以下にあげてみます。
マイクロニードリング・高周波(RF)・レーザー
マイクロニードリングは微細な穿刺による修復反応を利用します。RFやレーザーはエネルギーによる組織反応を利用し、目的に応じてコラーゲンの再構築などを促します。
いずれも適切な適応・出力設定・術後観察が必要で、刺激を強くすれば必ず効果が高くなるわけではありません。
PRP(多血小板血漿)
PRPは患者本人の血液から血小板を多く含む成分を調製するものです。血小板由来の成長因子が組織修復に関与するという生物学的背景があります。
PN・PDRN(ポリヌクレオチド関連製剤)
PNやPDRNはDNA、核酸に関連した製剤として、創傷修復や皮膚の状態への作用が研究されています。
DNAが壊れたと認識して、組織修復が始まります。 詳しい解説はこちらも
6.まとめ:創傷治癒で覚えておきたい5つのポイント
- 創傷治癒は止血・炎症・増殖・成熟の4段階で、互いに重なり合って進む。
- 炎症は修復に必要だが、悪化する痛み・発赤・排膿・発熱などには注意する。
- 栄養不足、糖尿病、喫煙、血流障害、摩擦や感染などが治癒を妨げる。
- 傷跡は表面が閉じてからも変化し続け、肥厚性瘢痕・ケロイドなどの問題が起こる場合がある。
- 美容医療には創傷治癒を利用したものが多く存在し、治癒遅延、過剰治癒がないかチェックする。
理解度チェック:創傷治癒の○×クイズ10問
各文章が正しければ「○」、誤っていれば「×」を選んでみてください。答えは10問の後にまとめています。
- 創傷治癒の4段階は、前の段階が完全に終わってから次の段階が始まる。
- 血小板は出血を止めるだけでなく、成長因子を放出して組織修復の開始にも関わる。
- 手術後に創部が赤くなった場合、必ず感染している。
- 術後の痛みが再び強くなり、赤みが広がっている場合は、医師・看護師に報告する必要がある。
- 増殖期には、線維芽細胞によるコラーゲン産生や血管新生などが進む。
- どのような創傷でも、乾燥させればさせるほど治りがよくなる。
- 喫煙、栄養不良、糖尿病などは創傷治癒を妨げる要因となりうる。
- 肥厚性瘢痕は元の傷の範囲を超えて広がるのが典型的で、ケロイドは範囲内に限局する。
- 美容医療後の赤みや硬さはすべて正常な治癒反応なので、症状の変化を確認する必要はない。
- 肌育注射で赤みが続いているが、必ず消えるので心配ないと伝えた。
○×クイズの解答・解説
- × 4段階は重なりながら進みます。境目が明確に分かれるわけではありません。
- ○ 血小板は止血に加え、PDGFなどの放出を通じて修復に関わります。
- × 一定の発赤は正常な炎症反応でも起こります。悪化傾向や他の症状も重要です。
- ○ 感染などの合併症を疑う変化であり、速やかな共有が必要です。
- ○ 新しい組織をつくり、創を閉じていく時期です。
- × 過度の乾燥や滲出液過多はどちらも問題となる場合があります。創に合った管理が必要です。
- ○ 全身状態も創傷治癒に影響します。
- × 一般に、肥厚性瘢痕は元の傷の範囲内、ケロイドは範囲を超えることがあります。
- × 症状の増悪や新たな異常を見逃さず、適切に評価・報告することが重要です。
- × 赤みが続いて治らない場合は、何らかの異常がある可能性があります。
参考文献・関連資料
- Physiology, Wound Healing. StatPearls / NCBI Bookshelf. 創傷治癒の4段階と細胞の役割
- International Wound Infection Institute. Wound infection in clinical practice: Principles of best practice, 4th edition (2026). 創部感染・バイオフィルムの最新コンセンサス
- Centers for Disease Control and Prevention. Surgical Site Infection Basics
- Grønkjær M, et al. Preoperative smoking status and postoperative complications: a systematic review and meta-analysis. PubMed
- Lin YS, et al. Comparison of Silicone Sheets and Paper Tape for the Management of Postoperative Scars: A Randomized Comparative Study. PubMed

吉田 有希(Yuuki Yoshida)
日本美容医療総合学会(JISAM)理事
THE CLINIC 東京院/日本専門医機構認定 形成外科専門医
主な経歴
- 2012年 山梨大学医学部 卒業
- 2014年 埼玉医科大学 形成外科・美容外科 入局
- 2016年 前橋赤十字病院 形成美容外科
- 2017年 埼玉医科大学 形成外科・美容外科 助教・外来医長
- 2020年 ガーデンクリニック新宿院 院長
- 2020年 埼玉医科大学病院 形成外科・美容外科 非常勤医師
- 2023年 Xクリニック銀座院 脂肪吸引最高責任者
- 2024年 THE CLINIC 入職
- 2025年 日本美容医療総合学会 理事就任
主な資格・所属
- 日本専門医機構認定 形成外科専門医
- 日本美容外科学会(JSAPS)専門医
- 日本美容外科学会(JSAS)専門医
- 日本抗加齢医学会専門医
学会発表・論文
https://dr-liposuction.jp/profile/



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